デッサンを学ぶ時の二つの手がかり
1 市販されている油彩画のテキストを見てみると、制作する上で一番大事なことは何か、などの記載があります。しばしば「感動」が強調されています。油絵に限らず、作品の制作は、主題をどう描いていくかが大切です。風景画であれば、風景を前にしたときの感動が大切です。どうやってその「感動」を描いていくかが制作になります。
2 美術作品ではないものを例にとってみます。主題やおもしろさなどがしっかり描けていれば読み応えがある、あるいは見応えがある小説や映画、ドラマとなります。小説やドラマ、映画などでは、静かな場面や緊迫した場面などの様々な場面を組み立てて感動やおもしろさが描かれていきます。時間とともに進行するので時間芸術と呼ばれます。対して、美術作品は一目で作品全体が目に入ります。静かなところや緊張感のあるところなど、時間ではなく場所により違いを持たせ、部分と部分、部分と全体などを響き合わせて感動を描いていきます。時間芸術に対して空間芸術と呼ばれます。
3 さて、デッサンで美しさや感動をどう描いていくのか、手がかりとなるものを二つ取り上げてみます。一つは明暗のちらばり具合です。古より石膏像が描かれてきたのは、形や明暗をより巧みにとらえられるようになるためだけではないようです。どの角度から見ても明暗のちりばめ方が美しいとされているから、と聞いたことがあります。また、角度や光源によって様々な調子の変化が生じますが、どのような状態をより美しいと感じるか、また、像を画面にどう入れ込んでいくのか、自分が美しいと感じたことをどう描いていくのか、そこに美の追究があります。明暗の散らばり具合は、美を追究し、感動や美を描く手がかりにすることができます。ただ単に像の明暗を紙の上に写し取ろうとするのではなく、明暗の調子の変化をどのように美しいと感じるか、またどう描いていくか、という着眼点が必要です。そうすることで、より踏み込んだ取り組みになっていきやすくなると思います。
4 石膏像だけではなく、静物デッサンでも同様に、明暗の調子の変化が手がかりとなります。静物をモチーフにするときは、自分でいろいろ組み合わせると思いますが、そのときに明暗の調子を見てみることです。ともすると、静物の場合、明暗以外の情報に気をとられてしまいそうになるかもしれません。明暗はモチーフの立体感を表す重要な要素なので、あまり意識せずに描いていると何かが抜けた感じになってしまいます。また、込み入った形やそれに伴う明暗の調子の変化や余白との組み立てが美しいといえる状態になっているか見てみましょう.
5 二つ目に、形の粗密に着目することが手がかりになります。静物であれば、画面の余白部分に対して、モチーフ同士が接近している状態を「密な」状態と言えます。密な状態は画面に動きや緊張感を生み出します。対して余白部分は、動きがなく静かな状態です。画面の中で、モチーフが混み合って緊張感のある部分と静かな余白の部分をどう組み立てるか、そこが美を追究することにつながります。石膏像では、見る角度や位置により込み入った形の散らばり方が違って見え、また画面にどう入れるかが美を追究する手がかりになります。小説やドラマで、静かな場面や緊迫感のある場面をどう組み立てていくか、ということと似ているかもしれません.
6 形のことを言葉だけで説明するとわかりづらいかもしれないので、参考資料を見てみましょう。下図は昨年作ったチラシです。図の中央部分は形の込み入った密な状態にしています。その他の部分は余白を多くしています。チラシのようなデザインの作品の場合、密な部分を画面全体の3割前後作るよう指導しています。作品にも依るので一概には言えませんが、一つの目安になると思います。形の込み合う緊張感のある部分を主役的な場所にして、その他の脇役的な場面とどう響き合わせるか、そのような視点があると、デッサンもより創造的で主体的になり、やっていておもしろみのある活動につながっていけると思います.
7 ここで光源についてですが、できるだけ、一つの方向からの光に近い状況にし、明暗を意識しやすい状態を作る工夫として、昼間は窓からの光で描く、夜は照明を使用して描くことが考えられます。昼間の窓からだけの光で描くときには照明は使わないようにすると、より一つの光源に近づきます。夜間は天井の照明だけにすることで一つの光源に近い状態になります。色々な方向から光がやってくるモチーフでは、立体感を表現しにくくなります。昼間に照明器具を使用せずに窓からの光だけで描くと、天候によっては少し暗く感じるかもしれませんが、デッサンの間だけ立体感を感じとりやすくするための工夫と考えてみて下さい。
8 大学の実技試験についての解説された資料を読むと、問題によっては「美の追究」の部分もしっかり評価の基準になっていると感じます。「~像を描きなさい」という課題でも「美の追究」はしっかり評価されていることでしょう。デッサンというと、ややもすると技術的な面だけに注意がいきがちと思いますが、「美の追究」の部分の取り組みも日々のデッサンに取り入れることで制作が深まり、技術的な向上にもつながっていくと思います。
